第1回:その「S」は本当に硬いのか? 業界に統一基準が存在しない「フレックス」の闇と、振動数(CPM)の限界

ステップアップゴルフ科学研究所の小平です。

これまで長年、慣性センサーを活用したM-Tracer の企画マーケティング、計測データと物理法則に基づいたゴルフスイングの解析やクラブフィッティングシステムの開発に携わってきましたが、こうしてブログという形でゴルファーの皆様へ直接情報を発信するのは初めての試みとなります。不慣れな点もあるかと思いますが、研究室のホワイトボード前で議論するような気持ちで、データが示す「事実」をお伝えできればと思います。

本連載の目的は一つです。
「感覚」や「経験則」のみで語られがちなゴルフの世界に、「科学」という客観的な物差しを提供すること。

第1回となる今回は、多くのゴルファーがクラブ選定の第一基準としている「フレックス(硬さ)」と、その指標として用いられる「振動数(CPM)」が抱える、構造的な課題について解説します。

ゴルフクラブを購入する際、あるいはリシャフトを検討する際、多くの方が「ヘッドスピード42m/sだからSシャフト」「少し力が落ちてきたからRシャフト」といった基準で選択されていることと思われます。

しかし、実際に購入したクラブを使用してみると、「Sを選んだはずなのに頼りなく感じる」、あるいは逆に「硬すぎてタイミングが取れない」といった違和感を抱くケースが少なくありません。
こうしたミスマッチが生じる背景には、ゴルファー自身のスイング精度の問題以前に、市場におけるシャフトの評価基準そのものが抱える曖昧さが大きく影響しています。

1. フレックス表記の構造的課題

まず認識すべき事実は、ゴルフシャフトの硬度を示す「L / A / R / S / X」といったフレックス表記には、JIS(日本産業規格)やISOのような業界統一の基準が存在しないということです。

これは、あるメーカーが設定した「S」という基準が、他社の「S」と同等であることを保証するものではないことを意味します。実際に複数のメーカーのシャフトを同一条件下で剛性計測したデータにおいては、「A社のSフレックスが、B社のXフレックスよりも剛性が低い(柔らかい)」という逆転現象も珍しくありません。

また、同じメーカーの製品であっても、ブランドやモデルが異なれば設計思想(ターゲット層)が変わるため、同一のフレックス表記であっても実際の硬さが異なるケースが散見されます。特に、市場の多くを占めるメーカー純正シャフト(オリジナルシャフト)に関しては、詳細な剛性データが公開されていないことが多く、ユーザーが表記のみを頼りに性能を比較検討することは物理的に困難であると言わざるを得ません。

2. 振動数(CPM)の物理的限界

フレックス表記の曖昧さを補完する数値として、多くのショップや工房で「振動数(CPM: Cycles Per Minute)」が採用されています。振動数は数値で表されるため、客観性が高い指標であることは間違いありません。しかし、シャフトの挙動全体を理解するという観点においては、CPMにも物理的な限界があると感じています。

一般的な振動数計は、シャフトのグリップ側(手元)を固定し、先端に重りをつけて弾いた際の揺れを計測します。この計測方法の特性上、算出される数値は「手元側の剛性」に強く依存する傾向があります。

シャフトは全長1メートルを超える弾性体であり、その剛性は手元、中間、先端と部位によって異なります。仮に、以下の2つの異なる特性を持つシャフトがあったとします。

  1. 手元が硬く、先端が大きくしなるシャフト(先調子系)
  2. 手元がしなり、先端が硬いシャフト(手元調子系)

この場合、手元側の剛性が同等であれば、先端や中間の剛性が全く異なっていたとしても、振動数計はほぼ同じ数値(例:250cpm)を示すことになります。

振動数は、手元側の硬さを揃える(番手間のフロー管理をする)上では有効な指標ですが、スイング中のシャフト全体のしなり方や、ヘッドの挙動に影響を与える「先端の動き」までは反映されません。したがって、「振動数は合っているはずなのに、振り心地が全く違う」という現象が起こり得るのです。

3. なぜメーカーは「振動数」を表示しないのか?

ここで一つの疑問が生じます。「フレックス(S/R)が曖昧なら、なぜメーカーは最初からシャフトに振動数を記載しないのか?」と。
実は、シャフトメーカーの工場では、品質管理のために厳密な振動数管理が行われています。しかし、それを製品に表示できないのには、物理的な理由があります。

振動数($f$)は、バネ定数($k$)と質量($m$)の関係で決まります。ゴルフにおいて、質量($m$)はヘッド重量、バネ($k$)はシャフトの長さや硬さに相当します。
つまり、全く同じシャフトであっても、「どのヘッドを装着するか(重さ)」「何インチで組むか(長さ)」によって、最終的な振動数は変化してしまうのです。

シャフトメーカーは「部品」としてのシャフトを供給していますが、それが最終的にどのようなヘッド・長さで組み上げられるかまではコントロールできません。そのため、完成品としての振動数を保証することができず、誤解を避けるためにあえて曖昧な「S」や「R」という表記にとどめているという側面があります。

これが、従来のフィッティングの限界点でした。「部品(シャフト)」と「完成品(クラブ)」の間にある情報の断絶です。

4. 剛性分布による可視化

以上のことから、自分に合ったシャフトを見つけるためには、単一の数値(フレックスやCPM)ではなく、シャフト全長にわたる剛性の変化を捉える必要があります。これを可能にするのが「剛性分布」という概念です。

剛性分布とは、シャフトを先端から手元まで多点(10点以上など)で計測し、各部位の曲げ剛性をグラフ化したものです。これにより、メーカー公表の「中調子」といった言葉ではなく、物理的なデータとしてシャフトの特性(どこが硬く、どこがしなるか)を可視化できます。

比較項目これまでの選び方(従来型)科学的アプローチ
判断基準メーカー公表のフレックス(R/S/X)剛性分布(全長の剛性推移)
計測データヘッドスピード(結果)のみグリップスピード解析(原因)
硬さの指標振動数(CPM)=手元剛性のみ多点計測による全体剛性の可視化
アプローチ絶対評価(スペック表への当てはめ)相対評価(現状との差分最適化)
リスク基準が曖昧で再現性が低い数値根拠があり、再現性が高い
得られる結果「なんとなく」合う気がするクラブ「なぜ合うか」が論理的に説明できるクラブ

まとめと次回予告

第1回の要点は以下の通りです。

  1. フレックス表記(S/R等)には統一基準がなく、メーカー間で直接比較することはできない。
  2. 振動数(CPM)は手元側の硬さを測る指標であり、シャフト全体のしなり特性を表すものではない。
  3. シャフトの特性を正確に把握するには、全長の剛性変化(剛性分布)を見る必要がある。

最適な剛性分布を持つシャフトを選定するためには、当然ながら「それを使う人間が、どのようにシャフトを振っているか」という情報が不可欠です。従来のヘッドスピードだけでは、シャフトにどのような負荷がかかっているか(どのようにしならせているか)までは判別できません。

次回は、スイングの動力源であり、シャフト選びの核心的な指標となる「グリップスピード」について解説します。ヘッドを走らせるために必要なのは、実は「加速」ではなく「減速」であるという、運動力学的な視点からスイングを紐解いていきます。


ステップアップゴルフ科学研究所
所長 小平

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