第2回:「HS42m/sならSシャフト」は思考停止? なぜヘッドスピードだけで選ぶと失敗するのか

ステップアップゴルフ科学研究所の小平です。

前回は、ゴルフ業界における「フレックス表記の曖昧さ」と「振動数の限界」について解説しました。記事を書いていて、私自身が改めて、ゴルファーの皆様が抱えるクラブ選びへの疑問の深さを感じています。

連載第2回となる今回は、多くのゴルファーがクラブ選びの「絶対的な基準」として疑わない「ヘッドスピード(HS)」に焦点を当てます。

雑誌やウェブサイト、ショップの店頭で、以下のような対応表をご覧になったことはないでしょうか。

  • HS 37m/s以下 → R
  • HS 37〜39m/s → SR
  • HS 39〜41m/s → S 
  • ・・・・・

非常に分かりやすく、一見合理的に見えるこの基準。しかし、実際にこの通りに選んで、「Sシャフトだと硬く感じて球が上がらない」というHS44m/sの方や、逆に「Rシャフトだと左右に散らばる」というHS38m/sの方が数多く存在します。

なぜ、ヘッドスピードだけでシャフトを選ぶとミスマッチが起こるのでしょうか。
その答えを紐解く前に、私たちはゴルフ界で使われている「言葉の定義」について整理する必要があります。

「タメ」「リリース」「ヘッドの走り」……その言葉、共通言語になっていますか?

ゴルフのスイングを語る際、私たちは頻繁に感覚的な言葉を使用します。「タメが強い」「リリースが早い」「ヘッドが走っている」といった表現です。これらはスイングの本質を突いた言葉ではありますが、フィッティングの現場においては、大きな誤解を生む原因となってきました。

なぜなら、これらの言葉の捉え方が、人によってあまりにも違うからです。

  • ある人は「手首の角度を維持すること」を「タメ」と呼び、
  • 別の人は「クラブが体に巻き付く感覚」を「タメ」と呼びます。
  • 「ヘッドの走り」を「インパクトでの爽快感」で判断する人もいれば、「球のつかまり」で判断する人もいます。

このように定義が曖昧な言葉を使っている限り、スイングとシャフトの正確なマッチングは不可能です。私たちが目指す「科学的フィッティング」には、誰が見ても同じ解釈になる「物理的な定義」が必要です。

そこで本研究所では、これらの感覚的な挙動を「グリップスピード(手元の速度)の変化」として物理的に定義し直します。

ヘッドスピードは「結果」。シャフトをしならせる「原因」は別にある

ヘッドスピード(HS)とは、スイングという一連の動作の末に生まれた「結果」としての数値です。インパクトの瞬間にヘッドが42m/sで移動しているという事実は、飛距離を予測する上では重要ですが、シャフトを選定する上では情報が不足しています。

例えば、時速100kmで走る2台の車を想像してください。

  1. アクセルを床まで踏み込み、急加速して100kmに達した車
  2. 時間をかけてゆっくりと加速し、滑らかに100kmに達した車

両者の到達速度(HS)は同じですが、エンジンやタイヤ(シャフト)にかかった負荷のプロセスは全く異なります。ゴルフスイングも同様で、同じHS42m/sであっても、シャフトに「急激な負荷」をかけているのか、「滑らかな負荷」で到達しているのかによって、必要とされるシャフトの剛性は根本的に変わってきます。

この「負荷のかかり方」を決定づけるのが、グリップスピードにおける「ブレーキ」の概念です。

飛ばしの鍵は「加速」ではなく「減速(ブレーキ)」

多くのゴルファーは、「ヘッドを速く動かすためには、手元(グリップ)を強く速く振り続けなければならない」と考えがちです。しかし、運動力学の観点(二重振り子モデル)からは、これは必ずしも正解ではありません。

先端にあるヘッドを効率よく加速させるために不可欠な要素。それは、手元(グリップ)の「減速」です。

トップから切り返した後、グリップスピードは重力と身体の回転によって加速し、7〜9 m/s程度でピークを迎えます。
重要なのはその後です。インパクトに向けて、プロや上級者のグリップスピードは急激に低下(減速)します。手元にブレーキがかかることで、行き場を失ったエネルギーがシャフトを介してヘッド側へと転移し、ヘッドが前方に放り出されるように急加速するのです。

つまり、「手元のブレーキのかけ方とその量」こそが、シャフトをしならせ、ヘッドを走らせる真の動力源なのです。

スイングの個性は「ブレーキのかけ方」に現れる

ここで重要になるのが、この「ブレーキのかけ方(減速の強さとタイミング)」には、ゴルファーによって大きな個人差があるという事実です。

これこそが、従来の「HS別推奨スペック」が見落としてきた死角で、物理的な「スイングの指紋」とも言える特性です。

同じHS42m/s(41〜43m/sのレンジ)のゴルファーであっても、ブレーキのかけ方で以下の2タイプに大別できます。

タイプA:急ブレーキ型(高負荷タイプ)
インパクト直前で手元を強く減速させ、その反動でヘッドを弾くように走らせるタイプです。「タメが強い」「リストターンタイプ」と表現されることが多いスイングです。

  • シャフトへの影響: 瞬間的に大きな負荷がかかり、大きくしなります。
  • 必要なスペック: 大きな負荷に耐え、当たり負けしない「硬め・重め」のシャフト。

タイプB:じわじわブレーキ型(低負荷タイプ)
手元の減速が緩やかで、身体の回転と共にクラブを等速的に運ぶようなタイプです。「払い打ち」「ボディターンタイプ」に多く見られます。

  • シャフトへの影響: シャフトにかかる負荷は比較的小さくなります。
  • 必要なスペック: 自身の力だけではしなりを作りにくいため、シャフトが積極的に動いてくれる「柔らかめ・軽め」のシャフト。

もし、タイプB(低負荷)の方が、HS42m/sという基準だけで一般的な「Sシャフト」を選んでしまったらどうなるでしょうか?
シャフトに対し、それをしならせるだけの十分な「ブレーキのエネルギー」を与えられないため、シャフトは硬い棒のように感じられ、しなり戻りの恩恵を受けられず、ボールは上がらず右に滑る傾向が出るでしょう。

逆に、タイプA(高負荷)の方が「Rシャフト」を使うと、ブレーキの強いエネルギーに対してシャフトが過剰にしなりすぎてしまい、ヘッドの挙動が安定せず、暴れてしまうことになります。

結論と次回予告

今回のポイントをまとめます。

  1. 「タメ」や「走り」といった感覚的な言葉は定義が曖昧であり、フィッティングの基準にはなり得ない。
  2. ヘッドスピードは「結果」であり、シャフトをしならせる動力源はグリップスピードの「減速(ブレーキ)」にある。
  3. ブレーキの強弱には個人差があり、HSが同じでも選ぶべきシャフトは異なる。

では、具体的にどうすれば自分の「ブレーキの量」や「タイミング」を知ることができるのでしょうか?

次回は、このグリップスピードの変化を数値化する独自の解析指標、「NU(ナチュラルアンコック)」「NRT(ナチュラルリリースタイミング)」について解説します。

これまで「タメ」や「ヘッドの走り」と感覚的に呼ばれていたものが、物理的な数値として明らかになります。この2つの数値を知ることで、あなたは初めて「自分のスイング」を客観的に理解し、迷いのないシャフト選びができるようになるはずです。

次回の更新をお待ちください。


ステップアップゴルフ科学研究所
所長 小平

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