第3回:スイングの「指紋」を特定する。ブレーキの強さとタイミングを示す「NU」と「NRT」とは?

ステップアップゴルフ科学研究所の小平です。

前回は、ゴルフスイングにおける「飛ばしのメカニズム」として、ヘッドスピード(結果)ではなく、グリップスピードの減速(原因)に着目すべきであるとお話ししました。

「ヘッドを走らせるためには、手元(グリップ)にブレーキをかける必要がある」

この物理法則をお伝えした際、多くの方から「頭では理解できるが、自分がどれくらいブレーキを使えているのか分からない」「そもそも『タメ』や『走り』という言葉が、人によって言うことが違って混乱する」といった声をいただきました。

まさに、そこがゴルフ界の長年の課題です。
第3回となる今回は、曖昧な「ゴルフ用語」の壁を壊し、あなたのスイングを物理的に特定するための2つの重要指標、「NU」「NRT」について解説します。

「タメ」「リリース」……その言葉、本当に通じ合っていますか?

長年、スイング解析やフィッティングの現場にいて痛いほど感じることがあります。それは、「ゴルフ独特の感覚的な言葉が、人によって全く違う意味で使われている」という事実です。

例えば「タメ」という言葉一つとっても:

  • ある人は「手首のコックを限界まで維持すること」を指し、
  • ある人は「トップで一瞬止まるような間(ま)」を指し、
  • またある人は「シャフトが体に巻き付くようなしなり」を指しています。

「リリース」や「ヘッドの走り」についても同様です。これらは感覚的な表現であり、明確な定義が存在しません。Tom Wishon氏のような著名なクラブ設計家でさえ、言葉だけでスイングの「切り返し(トランジション)」の強弱を正確に伝えることは困難であると指摘しています。

定義が曖昧な言葉を使い続けている限り、スイングとシャフトの正確なマッチングは不可能です。私たちに必要なのは、誰が見ても同じ解釈になる「物理的な共通言語(数値)」です。

そこで本研究所では、M-Tracer等の最新機器を用いて、これらの挙動を以下の2つの数値として再定義します。

  1. NU(Natural Uncock):ブレーキの強さ(量)
  2. NRT(Natural Release Timing):ブレーキのタイミング(時期)

これらは、あなたのスイングがシャフトにどのような負荷を与えているかを示す、まさに「スイングの指紋」とも言えるデータです。

1. NU(ナチュラルアンコック)=「ブレーキの強さ」

NU値とは、ダウンスイングにおける「グリップスピードの減速率」を示す指標です。
具体的には、「グリップスピードが最大になった瞬間」から「インパクトの瞬間」までに、どれだけ手元が減速したか(ブレーキがかかったか)を数値化したものです。

一般的に「ヘッドの走り」と感覚的に表現される現象の正体がこれにあたります。

  • 高NUタイプ(数値が高い):急ブレーキ型
    インパクト直前で手元を急激に減速させ、その反動(慣性力)を利用してヘッドを弾くように走らせるタイプです。リストターンを積極的に使うゴルファーや、インパクトで強く叩くタイプに多く見られます。
    • シャフトへの影響: 先端方向に強烈な負荷がかかります。
    • 必要な剛性: 急激な負荷に負けないよう、「先端剛性が高い(しっかりした)」シャフトが適合する傾向があります。
  • 低NUタイプ(数値が低い):じわじわブレーキ型
    手元の減速が緩やかで、フィニッシュまで手元とヘッドが同調して動くようなタイプです。ボディターン主導のスイングや、払い打つタイプのゴルファーに見られる傾向です。
    • シャフトへの影響: プレイヤー自身による「ヘッドを走らせる力」は弱くなります。
    • 必要な剛性: シャフト自体の復元力を利用してヘッドを加速させる必要があるため、「先端が動きやすい(しなり戻る)」シャフトが適合する傾向があります。

「ヘッドスピードが速いから硬いシャフト」という単純な図式が成り立たない理由がここにあります。たとえHSが速くても、NUが低い(ブレーキが弱い)人が先端の硬いシャフトを使うと、ヘッドが走らず、ボールがつかまらないという現象が起きるのです。

2. NRT(ナチュラルリリースタイミング)=「ブレーキのタイミング」

NRT値は、ダウンスイングを開始してからインパクトまでの時間の中で、「どのタイミングでグリップスピードが最大になったか(ブレーキをかけ始めたか)」を示す指標です。

一般的に「タメ」や「リリース」と表現される動作のタイミングを可視化したものです。

  • 高NRTタイプ(20%以上):レイトリリース型(タメが強い)
    ダウンスイングの後半、インパクトに近い位置までグリップスピードが加速し続けるタイプです。プロゴルファーや上級者の多くはこの数値が高くなる傾向にあり、インパクト直前までエネルギーを保持しています。
    • シャフトへの影響: インパクト直前で一気にエネルギーが解放されるため、シャフトの挙動制御がシビアになります。手元の剛性が低いと、タイミングが遅れる原因になります。
  • 低NRTタイプ:アーリーリリース型(タメがほどける)
    ダウンスイングの早い段階でグリップスピードがピークを迎え、その後は減速しながらヘッドを下ろしてくるタイプです。多くのアマチュアゴルファーがここに分類されます。
    • シャフトへの影響: エネルギーの解放が早いため、インパクトゾーンでのシャフトの挙動は比較的穏やかになります。

このNRTは、シャフトの「調子(キックポイント)」「手元剛性(C/B値)」選びに大きく関わります。タメが強い(高NRT)人が、手元が柔らかすぎるシャフトを使うと、切り返しでヘッドが遅れすぎてタイミングが合わなくなる場合があります。

「エンジンの大きさ」と「タイヤの性能」

ここまで解説した「ヘッドスピード(HS)」と「NU・NRT」の関係は、自動車に例えると分かりやすいでしょう。

  • ヘッドスピード(HS):エンジンの大きさ(馬力)
  • NU・NRT:タイヤへの動力伝達システム(トランスミッションとタイヤ)

従来のフィッティングは、「エンジンが大きい(HSが速い)から、レーシングタイヤ(硬いシャフト)を履かせよう」という発想でした。しかし、いくらエンジンが大きくても、ドライバーが急ブレーキや急ハンドルを繰り返す運転(高NU)をするのか、滑らかにクルージングする運転(低NU)をするのかによって、選ぶべきタイヤ(シャフト)の性能は全く異なるはずです。

  • HSが速く、NUが高い人: エンジンパワーがあり、かつタイヤに急激なトルクをかけるタイプ。→ 高剛性でねじれないシャフトが必要です。
  • HSが速く、NUが低い人: エンジンパワーはあるが、動力伝達はマイルドなタイプ。→ ある程度しなりを感じられるシャフトでなければ、タイミングが取れず飛距離をロスします。

このように、HSという「結果」だけでなく、NUとNRTという「プロセス」を組み合わせることで初めて、物理的に整合性の取れた「合うシャフト」が導き出されるのです。

まとめと次回予告

今回のポイントをまとめます。

  1. 「タメ」や「走り」といった言葉は定義が曖昧であり、共通理解が得にくい。
  2. NU(ナチュラルアンコック)は「ブレーキの強さ」を表し、シャフトの「先端剛性」の必要量を決定する。
  3. NRT(ナチュラルリリースタイミング)は「ブレーキのタイミング」を表し、シャフトの「手元剛性」や「キックポイント」の選定に関わる。

ご自身のスイングが「急ブレーキ型」なのか「じわじわ型」なのか。そして「タメが維持できている」のか「ほどけている」のか。これを知らずして、数万円もするシャフトを購入するのは、サイズを測らずにオーダーメイドスーツを作るようなものです。

では、あなたのNU・NRTの数値が判明したとして、具体的にどのような「剛性分布(EI)」を持つシャフトを選べばよいのでしょうか?

次回は、いよいよフィッティングの核心へ。
「高NU・高NRTのゴルファーには、具体的にシャフトの『どこ』が硬いモデルを合わせるべきか?」
ブラックボックス化されていたシャフトのマッチングロジックを、独自の剛性分布データと共に公開します。

次回の更新をお待ちください。


ステップアップゴルフ科学研究所
所長 小平

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